第13回 ユニット仕上げ~機械の組合せ
衣類を洗って、汚れを落とすという作業は、それが高価なものでも、安いものでも、格段の差があってはならない。なぜなら、その作業こそがクリーニングの基本中の基本であって、プロの業者にとって当然の義務でもあるからだ。
従って、洗浄は常に溶剤の管理、温度、湿度、適正な洗剤とその濃度、時間など、きびしい洗浄理論に基づいた確実な作業を実施しなければならない。
シミの除去や仕上げの程度に関しては、それなりに格差があって当然である。シミの問題は後にゆずるとして、ここでは仕上げの作業について考えてみたい。
今日のクリーニング業界の仕上げほど曖昧なものはない、と思うのは私だけではないだろう。残念ながら業界としての仕上げの基準も、作業マニュアルも決定的なものにはお目にかかったことはない。仕上げに使用している機器も千差万別であり、その使用方法はさらに多種多様である。
背広の上着は一体どんな仕上げをすべきなのか。紳士服専門店のウインドウに出ている上着を眺めていたり、デパートの紳士服売場でそれとなく触ってみたりして勉強したこともあった。あの新品の風合いに少しでも近付けるためには、と。
むかし仕上げの作業は、やはりある種のアイロンから始まったといわれている。もちろんアイロンにも、その形や熱源の変化に、いろいろの歴史があっただろう。
数ものとして枚数が増えてきたハンカチの仕上げに、上下二枚の薄い鉄板に熱を通してプレスするようになった。そのうちに、もう少し大型のプレス機を開発し、この熱源に蒸気を使用して、ドライ品の仕上げに使いはじめた。これは非常に効率が良く、急速に普及していった。それからしばらくの間、ドライ品の仕上げはすべてこの万能型プレス機とハンドアイロンが主役であった。
ところが点数的には圧倒的にズボンが多く、万能プレス機では片方の股下だけで3動作、両方で6動作、さらに腰回りに最低3動作、実に9動作もかけなければ1本のズボンを仕上げることができない。これでは、どうみても効率が良くない。そこで開発されたのが、次の3機種である。
- ズボンプレス機(股下プレス・レガープレス)
片方の股下を1動作でプレス仕上げする。 - 腰プレス機(卵型プレス・マッシュルームプレス)
腰回り専用のプレス機で品質は最高クラス。 - パンツトッパー
腰回りを1動作で自動的に仕上げる。タッグも付ける。
上着、コート類の特に肩、袖の部分の仕上げは非常に難しく、立体裁断で縫製された洋服独自の立体感が失われがちである。ここに重点を置いて研究開発されたのが人体プレス機(ガーメントフィニッシャー)である。
また繊細な生地やアクセサリーの多い婦人服の仕上げにはパフが欠かせないのでシングル、スリーブ、2連、3連等のパフアイロンが用意されている。
ドライ品の仕上機はその後、今日にいたるまで、いろいろな機種が市場に出回ったが、基本的にはここで紹介した機種の変型と考えていいだろう。
一方、水洗品の仕上機も独自の改良が加えられ、全自動ワイシャツ仕上セット、シーツローラー等、小型からリネンサプライ用の大型に至るまで、機器の近代化は今日もなお進められている。
さて、ここであげたドライ品の仕上機は、日本ではそれぞれ単体で使用するのが一般的であるが、海外では2~3台の機械を組み合わせて、ユニットにして使うのがより効果的であるとされている。
例えばズボンの場合、まず一人がパンツトッパーで腰を仕上げて次の人に送る。次の人は両股下をプレスし、シングルパフで股のところの小じわを伸ばして完了する。上着であれば一人が人体プレス機でまず立体仕上をして、次の人がプレス機で背中と前身頃をプレスし襟の形を整え、さらに細かい部分をアイロンで手直して完了。これが1台の機械を一人が使う単体使用の時の仕事の流れであるが、ユニット仕上げでは一人が複数の機械を使って、一点一点を完全に仕上げていく。
つまりユニット仕上とは、ズボン類は「パンツユニット」で、コート類は「コートユニット」、婦人服・ワンピース等は「シルクユニット」で仕上げることを総称するもので、機械の組み合わせの標準的なものは次の通りである。
- パンツユニット:パンツトッパー、ズボンプレス機、シングルパフアイロン
- コートユニット:人体プレス機、万能プレス機
- シルクユニット:人体プレス機、万能プレス機、3連パフアイロン
多くのクリーニング業者の方々は機械の導入については極めて消極的である。よくいえば非常に慎重である。しかし試行錯誤の末、一旦導入が決定してしまうと、後は呆れるほど人任せになってしまう。徹底的にその機械を使いこなそうという熱心さはあまりみられない。機械の手入れ等ほとんど関心がなく、取扱説明書はすぐになくしてしまう。故障すればメーカーが電話一本で直ちに飛んできて修理してくれるのが当たり前だと信じている。
物言わず、黙々と働いてくれている機械をもっともっと可愛がって欲しい。たまには布で磨いて、油も差して欲しい。工場の中の機械達の悲痛な叫びが聞こえないだろうか。
特に仕上機は微妙な調整が必要であり、常にスムースな動きが要求されるため手入を重視し、また機械及びその周辺は、いつも清潔さを心掛けて欲しい。
仕上げの担当者はもちろん、パートの人たちにも機械の扱い方、手入れの仕方、そしてその機械を使ってどのように衣類を仕上げるか、手をとって十分に教えることである。何回も何回も、癖になるまで。職人さんがいるから機械はいらないというのは、むかしのこと。職人さんにこそ機械を十分に使いこなしてもらうべきなのである。
さて、ユニット仕上げにはいかなるメリットがあるのだろうか。
最近、一流企業の大工場で流れ作業に大きな改革がはじまっている。それは何かというと、流れ作業のラインの中に、完成品に近い組立作業をユニットとして組み入れることである。作業員は小さな部品を組み込むというマンネリ化した単純作業から解放され、ひとつのまとまった完成品を組み上げたという責任感と達成感を意識し、仕事に対する意欲を大いに増進させるというのである。
仕上作業についても、一着の衣類を自分が責任を持って仕上げるということに大きな意義があり、品質の向上にも大きくプラスするはずである。
職人さんは自分の持っている技術に機械力をプラスして、より簡単に、より効率良く生産性を高めることを考えて欲しい。もちろんパートの人も機械力を活用することにより、短期間で新しい戦力に加えられるはずである。