第1回 ボクが継いだ理由(わけ)
日曜日の午後、駅前の喫茶店「えんじぇる」でのこと。
「えーっ!本当に辞めちゃったんだ、会社」とシンイチ。「ふーん、やっぱり実家の仕事を縦ぐんだ」とマリコ。
久しぶりに会った同級生二人に「ウチの仕事を手伝うんだ」と告げたことへの反応だった。
ボクは猫野サンタ、26才。実家はクリーニング店をやっている。父は猫野トラジロウ、55才。この道一筋、35年のベテランだ。母、タマミはお店の受付と家事を仕切る兼業主婦。お店はユニットショップだが取次店が5カ所あるから、それなりに忙しいようだ。
先週、ボクは大学を卒業して4年間勤めた会社を退職した。別に働くのが嫌いとか、いま流行のリストラに遭ったわけじゃない。ただ、4年経っても変らない仕事・・・商品の出し入れと伝票整理に明け暮れ、アイデアを出しても笑って聞き流す上司(会社?)には疑問を感じていた。自分のヤル気が失せないうちに、何かひとつでも充実感が欲しかったのかもしれない。
家業を継ごう(という意思がハッキリあるわけじゃないが)と考えて「ボク、お店を手伝うよ」と伝えたとき、父は「お前が?・・・まあ、やってみな」と言ってくれたが、会社を辞めた理由を説明しても、わからないだろうなぁ。
でも、母は内心嬉しそうだった。「大丈夫かねえ・・・」と言いつつも、自分が抱える事務処理や雑用が楽になると思ったのか、やっと息子が後継ぎに決まってのことか。
実は、ボクには兄と姉がいる。兄「アタロウ」は31才。典型的なサラリーマンで、家業は無関係とばかり社員寮に住み、土・日曜日はしっかり休んでテニスだ、スキーだと青春をエンジョイしている。姉「カナエ」は28才で銀行のOLをしていたが、現在は父から取次店のひとつを任されている「しっかり者」である(嫁の貰い手がない、というと殴られる)。
さて、明日からボクもクリーニング業の一員だが、何しろ「見よう見まね」のスタートだから、どうなることやら・・・。
*** 親父のホンネ ***
まったく、調子よく「手伝うよ!」とか言って・・・会社で何をしてたか知らないが、4年しか勤まらないヤツには楽じゃねえゾ!
【著者】岸 和浩
有限会社ブルースパイス代表取締役・コーディネーター。
業種を問わず、営業部門の販売促進、各種団体の広報と製造部門の合理化について企画・提案を行い、その制作と実施をサポート。クリーニング業界では新機軸の販促システムの提供をはじめ、専門新聞紙上に数々の連載を発表しているほか、二世の経営を考える広場『リレーズ・プラザ』の事務局としての活動も行っている。